「新学習指導要領」が求めるもの
2019/01/09(水)
育英義塾教員養成学院には、元学校長の先生方が数多くいらっしゃいます。その中から、今回は山田稔先生をご紹介致します。
山田先生は、1951年沖縄市生まれ。筑波大学大学院修士課程修了。元沖縄県教育庁中頭教育事務所指導課長。元公立小学校校長。
以下は、沖縄県退職校長会「会報」22号で掲載されました。
「新学習指導要領」が求めるもの 山田 稔
平成29年3月に文部科学省より小・中学校の学習指導要領の改正が告示され、小・中学校においては平成32年4月の本格実施に先立ち、平成30年4月から移行措置が実施される。改めて、新学習指導要領の特徴や学校に求められることについて述べたい。
まず、今回の改訂の大きな特徴の一つは、AIや知識基盤社会の飛躍的な進展の中で、学ぶことの本質的な意義を問い直し、「子どもが何ができるようになるか」といった、子どもに身に付けさせたい資質・能力を明確化したことである。これは学校教育法第30条2項の小学校の目標との整合性や「生きる力」の具現化を図るため、①生きて働く「知識・技能」の習得、②未知の状況にも対応できる「思考カ・判断カ・表現力 等」の育成、③学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かうカ・人間性」の3つの資質・能力を明確化したことである。
2つ目の特徴は、従前の「何を」(各教科等の目標・内容)に加え、「どのように学ぶか」といった指導方法を明確化したことである。従前の学習指導要領では「教育課程実施上の配慮事項」の中で取り上げられていたが、今回の改訂では、「教育課程の実施と学習評価」の中で、知識の理解の質を高める授業改善の視点として中核をなしている。すなわち、子どもたちが学習内容を深く理解するために、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」の実現を目指す授業改善が求められている。
3つ目の特徴は、教育課程の質を向上させ学習の質の最大化を図る「カリキュラム・マネジメント」の実現である。すなわち、従前の教育課程の編成・実施・評価・改善といったPDCAサイクルに加え、各教科等の目標や内容の関連付けや横断を図る教科等横断的な視点で教育内容を組織的に配列し、学習の基盤及及び現代的な課題に対応できる資質・能力を育成すること。また、学校教育の質の向上を図るためには、家庭や地域とも子どもたちにどのような資質・能力を育むかという目標(子ども像)を共有し、そのための教育活動に必要な人的・物的資源等を地域の外部資源も含めて効果的な活用を図ることであり、「社会に開かれた教育課程」の理念をなすものである。
子どもたちにこれからの時代に必要な資質・能力を身に付けさせるためには、「アクティブ・ラーニング」「カリキュラム・マネジメント」の授業と学校の組織や経営の改善を両輪とした学校全体の機能強化が求められる。
平成30年度からの新学習指導要領への移行期間においては、持続可能な社会の創り手となることが期待される子どもに必要となる 資質・能力として、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かうカ・人間力」をバランスよく育成することを目指し、これまでの教育実践の蓄積をしっかりと引き継ぎ、家庭・地域とも取組の方向性を共有して、新教育課程への円滑な移行を図ることが肝要と言えよう。
以下は、琉球新報「東風」で掲載されました。
「個」が生きる授業づくり 山田 稔
最近、学校の授業を参観する機会が増え、その度に在職当時の授業風景が思い出されると同時に、今更ながらに、日々の授業に熱心に取り組んでいる教師の姿に頭が下がる思いである。改めて、授業づくりについて考えてみたい。
授業は、教師・児童・教材の3つの要素から構成され、三者の相互作用により成立している。なかでも教師の果たす役割は大きい。教師が授業を実施するにあたっては、教材の内容を解釈(教材観)し、児童の実態(児童観)を踏まえ、効果的な指導法(指導観)を考える。教師は、児童に学習目標を達成させるために、学習内容を全ての児童に理解できるように周到な教材研究に努め多くの成果を挙げている。一方で、入念な教材研究を行い指導法を工夫改善したにもかかわらず、十分な成果を挙げられない場合もありうる。
これは授業の成果要素である教材や指導法については十分な準備ができていたとしても、もう一つの要素である児童の実態把握をどのような視点で行ったかではないか。すなわち、児童には、それぞれの個性や特性があり、学習の理解の速さやスタイルには違いがある。児童のなかには教師の指導のペースに十分に適応できないことも少なくない。
児童観で大事にしたいことは、児童を「全体」として十把一絡げに捉えることだけではなく、「個」として一人一人の興味・関心、学習の理解度や学び方等を考慮して、きめ細やかな指導を心がけることである。学習指導要領でも、「個に応じた指導」が重視されており、学習に入る前の児童個々の学習のレディネス(準備状態)、学習の途中や終了時の児童の理解状況を定性的に把握し、その都度フィードバックすることが大事である。「学習は個において成立する」。教師の児童観の網目を細かくして「個」が生きる授業作りに努めたいものである。
2017年9月24日 琉球新報「東風」掲載